定年後、収入が少なくなることを考慮すると、現役時代に少しでも住宅ローンを繰り上げ返済しておきたいところだが、いつ、どれくらい返済するのがよいのだろうか。
住宅系ファイナンシャルプランナー(FP)の関根克直さんが解説する。
人生にはお金を貯める時期と、その貯めたお金を取り崩す時期があります。
それは人によって大きく異なるため、住宅ローンの返済も誰にでも当てはまる正解があるわけでなく、ライフプランによって戦略を変える必要があります。
大前提として把握しておきたいのが、人生の「三大支出」です。
大きなお金を取り崩す時期というのは、この三大支出である「教育資金」「住宅資金」「老後資金」がかかる時期になります。
ここでポイントとなるのが、同じような年齢で子どもを産んでも、同じ時期に住宅を購入しても、それぞれの家庭によって、貯蓄が増える(余裕がある)時期・貯蓄が減る(余裕がない)時期は異なるということです。
住宅ローンの繰り上げ返済は、慎重に取り組む必要があります。
もちろん早いうちから繰り上げ返済できるのであれば、それに越したことはありません。
しかし、子どもがまだ小さいうちに預貯金の残高のみを見て、まだ余裕があるからと、教育費のピーク前に繰り上げ返済しすぎてしまう方は少なくありません。
結果、繰り上げ返済後にやってくる教育費のピーク時に家計が破綻してしまう、破綻しないまでも預貯金がギリギリになって、奨学金に頼らざるをえないというケースも出てきます。
子どもの進学のために奨学金を借りると、返済しなければならないのは子ども自身です。
初任給の少ない給料から毎月一定の金額を返済し続けるのは、子どもにとって大きな負担になります。
無利子の「第一種奨学金」ならまだよいですが、「第二種奨学金」だと金利が発生してしまい、借りた金額より多くの金額を返済する必要があります。
住宅ローンの繰り上げ返済を急いだことで、教育費のピーク時に家計が破綻してしまう──。
こうしたことは、ライフプランを作成して人生のお金の流れを把握していれば防げることです。
ライフプランを作成すると、現在だけでなく、未来のお金の流れも掴めるのが最大のメリットです。
子どもができたのが30歳の時か、40歳の時か
では、住宅ローンの繰り上げ返済はどのように進めればよいのでしょうか。
それは各家庭で子どもができた時期によって大きく異なります。
例えば30歳のときに子どもが産まれたら、教育費の支払いが終わるのは、53歳のときになります。
多くの会社の定年である60歳まで7年もあるので、この時期を過ぎれば、お金に余裕が出てくることでしょう。
この時期に住宅ローンの繰り上げ返済を行ったり、老後資金を準備したりすることができるでしょう。
これがもし、40歳のときに子どもが産まれたら、教育費の支払いが終わるのは63歳になります。
今は晩婚の方も多いため、決して珍しいケースではないと思います。
しかし、残念なことに、40歳以降に子どもが生まれた方の住宅ローンの繰り上げ返済のやり方に「テンプレート」はありません。
その家庭の収入や、貯金額、将来を見据えたライフプランをもとに、いつ繰り上げ返済をすることができるのかをその都度確認していくしかありません。
30歳のときの出産と40歳のときの出産では、10年しか変わらないように見えますが、決定的にライフプランが変わります。
教育費の支払いが終わる63歳の頃には、定年退職している人も多いかもしれません。
そうなると、教育費の支払い終了後にお金を貯めていくのは難しく、子どもの教育費のピークまでにいかに老後資金も含めて貯蓄をしていくかが重要となります。
貯蓄がなければ選択肢を広げられない
また、40代以降での住宅購入でよくあるケースが「購入する物件が高すぎる」というものです。
それくらいの年齢になってくると、若い時に比べて収入も高く、ある程度、貯蓄もあるケースが多いため、住宅購入予算が上がってしまい、結果、住宅ローンを支払えなくなってしまうということもあります。
住宅購入後に、収入が高い時期がどれくらい続くのかをよく考え、現実を踏まえてライフプランを作成しましょう。
このように、人生全体のライフプランを通して大きな目線で見るようになれば、いつお金を貯める必要があるのか、そしていつそれを取り崩すことになるのか、その時期の目安がわかってきます。
それぞれの家庭でライフプランは異なり、同じライフプランは一つも存在しません。
一概には言えませんが、若いうちに購入した場合の住宅ローン返済は、主に教育費を払いきったあと、定年までの期間で返済できることも多いでしょう。
教育費のピーク前に無理をして繰り上げ返済を行わないように注意してください。
一方、40代以降で購入した際の住宅ローン返済パターンは、その家庭ごとに異なるので、オーソドックスな形はありません。
ライフプランを作成し、後から資金不足になってしまわないように注意しましょう。
最後に、若いうちでの住宅購入や、40代以降での住宅購入、いずれのケースでも貯蓄がなければ選択肢を広げることができません。
どういったところにいくらくらいのお金をかけているのか、家計をしっかりと把握していきましょう。
また、お金をかけたいところと、我慢して節約するところを明確にすると、貯蓄もしやすいと思います。