2022/09/21 10:52
物価上昇でもう限界?100円ショップは「100円均一」を維持できるのか
日本経済が長期低迷する中、順調に市場を拡大してきた100円ショップのビジネスが曲がり角を迎えている。
言うまでもなくその原因は、近年、激しさを増している物価上昇である。
そもそも30年間、値段が変わらないというのは、ある種の異常事態であり、100円均一という安値で商品を販売する仕組みそのものが、限界を迎えている。
●安価な輸入品に支えられ、急成長を実現 デフレが長く続いた日本において、100円ショップは業績が順調に拡大する数少ない業態の1つであった。
帝国データバンクによると、100円ショップ大手5社の売上高は10年間で2倍近くの伸びを示している。
100円ショップのビジネスモデルを支えているのが、安価な輸入品であることは説明するまでもないだろう。
100円ショップと聞くと、安い価格で商品を販売していることから、薄利多売のビジネスをイメージする人も多いが現実は少し異なる。
100円ショップで売られている商品の平均的な仕入れコストは70円程度であり、小売店の中では利益率が高い部類に入る。
しかしながら、100円ショップはたいていの場合、条件の良い場所に店舗を構えており、店舗の維持コストは極めて高い。
また、商品の種類によっては在庫の回転率があまり高くないため、相応の利益率を確保しておかないと、そもそもビジネスとして成り立たない。
それでも、すべての商品が100円に対して70円で仕入れができているのかというとそうではなく、仕入れコストが100円をオーバーしている商品も多い。
一方で、圧倒的に安く仕入れることが可能な商品もあり、商品の組み合わせを最適化することで平均70円の仕入れコストを維持する仕組みになっている。
つまり、安く仕入れることができる商品については、極限までコストを引き下げることが同業態にとって至上命題となる。
100円ショップに並ぶ商品の多くは、中国や東南アジアなどで生産されており、こうした安価な工業国の存在が100円ショップのビジネスを成り立たせてきた。
ところが、近年、全世界的に物価高騰が進んでいることから、各社は仕入れコストの上昇に悩まされている。
日本の場合、ここに円安が加わっており、今後、仕入れ価格がさらに上がることが懸念される。
こうした事態をもっとも端的に反映したのがダイソーの300円ショップだろう。
最大手のダイソーは2022年4月、東京・銀座の商業施設に旗艦店をオープンしたが、同時展開した3店舗のうち2店舗は100円均一ではなく、300円など、より高い価格帯の商品が中心となっている。
実は100円ショップ各社は、以前から商品の中に200円や300円といった単価の高いものを加えており、平均的な商品単価が上がっていることは、100円ショップをよく利用する人の間ではよく知られていた。
資材価格の高騰や円安によって輸入品の価格が上昇している以上、従来と同一条件で商品を販売することは、さらに難しくなると予想される。
●均一価格の水準は変化するのが当たり前 100円ショップのような均一価格販売は、主に米国で発達した業態であり、同国では多くの事業者が、いわゆる1ドルショップを展開している。
だが、米国の1ドルショップは、ずっと昔から1ドル均一だったわけではない。
以前は25セント均一という店が多く、その前は10セント均一という時代もあった
(10セント均一の店舗は、10セント硬貨の別名であるダイムにちなんでダイムストアなどと呼ばれていた)
その後、物価の上昇に伴って25セントが50セントになり、最近になって1ドルショップというものが定着した。
ところが米国では、ここ10年インフレがさらに顕著となっていることから、1ドル均一での販売が難しくなっている。
ブランド名として1ドルを名乗っているところは多いが、現実には1.5ドルや2ドルなどで販売を行う店舗が多い。
つまり、100円均一という業態が30年も続き、実際に売られてる商品も100円のままというのは、日本だけの現象であり、これは本来あってはならない姿と言って良いだろう。
では、仕入れ価格の急騰という問題に直面した100円ショップは、今後どのような展開を見せるのだろうか。
体力のない一部の100円ショップは、一連の物価高騰で廃業に追い込まれており、今後、大手の寡占化がさらに進むことは間違いない。
ダイソーのように300円均一の店を展開したり、100円ショップというブランド名は維持しつつも、単価の高い商品をポートフォリオに加えるという流れがさらに拡大すると予想される。
もっとも、日本経済は低迷が続いており、商品価格が上がれば、当然のことながら販売数量に影響する。
日本の場合、内容量を変えず価格を上げたケースと、内容量を減らして価格を据え置いたケースでは、圧倒的に後者の方が販売数量を維持できることが多い。100円ショップ側としては、単価を上げる一方、可能な限り100円均一を維持したいと考えるのは当然かもしれない。
今後も100円均一販売を維持するためには、安価な仕入れ先の確保が至上命題となるわけだが、主な仕入先であった中国は、もはや安価な製品供給基地ではなくなりつつあるのが現実だ。
●国産品に切り換えることで100円を維持する? どの国で製品を製造するのが最もコストが安いのかを示す指標の1つに、ユニット・レーバー・コスト(ULC)と呼ばれるものがある。
筆者が試算したところによると、日本と中国のULCは、すでに拮抗した状態にあり、ここからさらに円安が進んだ場合、いよいよ日本と中国の人件費が逆転する。
そうなってくると、これまで中国や東南アジアから仕入れていた商品を、日本製品に切り替えるという選択肢が理論上、可能となってくる。
実際、一部の100円ショップでは、国内のメーカーとの交渉を始めており、一部の製品は中国製から日本製に切り替わっている。
中国よりも日本の方が人件費が安いのであれば、国産に切り替えた方がコストが安くなるのは当然の結果であり、国内産に切り換えれば、購入代金もすべてが国内に落ちるので、マクロ経済的にもメリットのある動きと言って良いだろう。
もっとも、中国よりも人件費が安いということは、その程度の付加価値しか生み出せていないということを意味しており、これは日本全体の経済水準が下がってしまったことの裏返しでもある。単純に喜べる話ではないかもしれないが、物価上昇によって仕入れコストが上昇している現状においては、有力な選択肢となる。
100円ショップはある意味で、今の日本を象徴する業態であり、今後は、多くの業界において国産品に切り替える動きが活発化してくるかもしれない。