年金保険料「納付延長」「70歳受給開始」になると元を取れるのは83歳
岸田政権は年金改悪プランを急ピッチで進めようとしている。
本誌・週刊ポストは10月21日号で、財政破綻が迫っている国民年金(基礎年金)の財源不足を穴埋めするため、厚労省がサラリーマンが加入する厚生年金の給付額を減らそうと計画していることを報じた。
「サラリーマン年金」の減額である。
【図解】岸田政権が進める「令和の年金大改悪」のカラクリ
厚労省はさらに改悪第2弾として、国民年金の加入期間を現在の40年(20~60歳まで)から45年に延ばし、65歳まで保険料を支払わせることを検討している。
しかも、今回の65歳への引き上げにはその先の狙いがある。
「年金70歳受給開始」だ。
高齢者雇用安定法で2025年には企業に社員の65歳までの雇用確保が完全義務化(現在は経過措置期間)され、「70歳までの継続雇用制度」についても努力義務とされた。
年金制度に詳しい「年金博士」こと社会保険労務士の北村庄吾氏はこう見る。
「国が描いているシナリオはサラリーマンの定年を65歳に引き上げ、65歳まで厚生年金保険料を負担させる。
それに合わせて年金受給開始年齢を67~68歳、70歳へと段階的に引き上げることです。
そのためには、自営業者などが加入する国民年金だけ保険料の支払いが60歳までだとバランスが取れない。
国民年金の加入期間を45年(65歳まで)に延長するのは、政府がいよいよ年金受給開始年齢の70歳への引き上げに動き出したからと考えられます」
図は、国民年金65歳まで加入、受給開始年齢70歳へのダブル改悪が行なわれたケースだ。
“元が取れるライン”は78歳からさらに約5年延び、平均寿命に近い83歳までかかることがわかる。
そのうえ、サラリーマンにはもっと厳しい年金改悪が待ち受けている。
厚労省が5年ごとに行なっている「将来の公的年金の財政見通し」(財政検証)の資料には、オプション試算として国民年金の45年加入などと並んで、現行では70歳までとなっている厚生年金の加入年齢上限を75歳まで延ばすプランが含まれている。
サラリーマンの厚生年金は2階建てで、国民年金に相当する「基礎年金」と「報酬比例部分」からなる。
現行制度では、大卒22歳で入社した社員が雇用延長で65歳まで43年間、あるいは70歳まで48年間厚生年金保険料を払った場合、報酬比例部分の年金額は増えるが、基礎年金額は加入40年で満額となるから増えない。
その分の保険料は「払い損」になっている。
国民年金の加入期間が45年に延長されれば「払い損」はいくぶん解消されるものの、厚生年金加入が75歳へと延長されれば、長く働く人は最大10年分(65~75歳)の保険料が「払い損」になる。
「75歳まで保険料を支払うことになると、すぐに受給しても平均寿命までの期間は短い。
これじゃサラリーマンは保険料支払いマシーンにさせられるだけで、まともな年金制度とは言えません」(北村氏)
政府は目先の年金財政を賄うために厚生年金の加入対象をパート・アルバイトなどにも拡大し、加入期間も延長して、できるだけ多くの国民に長く保険料を払わせようとしている。
「今後は厚生年金の適用拡大も考えられます。
2016年に、従業員数501人以上の企業を対象として、正社員だけではなく、パート・アルバイトに対しても社会保険への加入を義務化する要件が制定された。それが20年の年金制度改正によって、加入範囲が順次拡大されているのです。
ゆくゆくはすべての企業でパート・アルバイトを含めた従業員全員に厚生年金の加入義務が課せられることも考えられる」(北村氏)
だが、その分、将来の年金支払総額は増える。
現役世代が年金を受給する頃には、次の世代が負担しなければならない年金債務が莫大になっていることなどまるで考えていない。